介護の話は、始まる前にはしにくい。

縁起でもない、と言われる。まだ元気だ、と言われる。それで先送りになる。

そして始まると、今度は時間が無い。

全部を決めようとしない

白川は──私は暦を扱う仕事をしているので、節目の相談として持ち込まれることが多い──切り出せない人の共通点をひとつ挙げるなら、これになる。

話し合いの規模を、大きく見積もりすぎている。

延命、施設、費用、相続。ここまで含めて考えるから、切り出せない。

始まる前に要るのは、三つだけでいい。

ひとつ、どこに何があるか

いちばん最初に困るのが、これになる。

保険証。お薬手帳。通帳と印鑑。年金の書類。かかりつけの病院名。

中身を聞く必要は無い。場所だけ聞く。

「もし入院になったとき、保険証はどこを見ればいい?」

これなら、重い話にならない。実際に必要になる場面が想像しやすいので、相手も答えやすい。

金額や名義に踏み込むと、途端に話が止まる。場所と、連絡先だけにする。

ふたつ、本人がどうしたいか

これは、決めてもらう必要は無い。

今の時点でどう思っているかを聞くだけでいい。

家にいたいか、施設も考えられるか。誰に決めてほしいか。

「今の気持ちでいいから」と前置きすると、答えやすくなる。将来を約束させると、答えられなくなる。

聞いたことは、そのまま兄弟姉妹に共有する。一人で聞いて、一人で抱えない。 ここを間違えると、あとで「勝手に決めた」という話になる。

みっつ、誰が最初に連絡を受けるか

倒れたとき、病院から連絡が行く先を決めておく。

決まっていないと、たいてい近くに住んでいる人のところに全部行く。その人が仕事を止めることになる。

一次連絡を受ける人と、実際に動く人を分けておくと、負担が偏りにくい。

兄弟姉妹の話し合いで書いたが、この手の取り決めは、始まる前のほうが淡々と決まる。始まってからだと、その場の事情が絡む。

日を選ぶなら

暦をこの話に使うなら、日取りとしてではなく、区切りとして使うほうがいい。

正月、立春、彼岸、誕生日。すでに家族が集まる、あるいは連絡を取る日が年に何度かある。

そこに一つ乗せる。新しく機会を作ろうとすると、それ自体が重くなる。

「せっかくだから聞いておこうと思って」で足りる。

一度で終わらせなくていい

三つ全部を一度で聞く必要も無い。

場所だけ聞いて終わる年があってもいい。翌年、気持ちを聞く。その次に、連絡の順を決める。

三年かけて三つでも、始まる前に終わっていれば十分になる。

始まってしまった人へ

もう始まっている場合、順番が変わる。

先に自治体の窓口へ行く。地域包括支援センターが入口になる。制度の話は、家族で考えるより窓口で聞いたほうが早い。

家族で決めるのは、制度で決まらない部分だけでいい。範囲が狭くなると、話し合いが成立する。

自分の体調が崩れているなら、そちらを先にする。介護する側が倒れると、全部が止まる。

今週やること

ひとつだけ。

次に親と連絡を取るとき、「保険証はどこにある?」と聞く。

それだけでいい。三つのうちの一つが、それで終わる。

大きな話し合いを準備しようとすると、たいてい始まらない。小さく一つずつのほうが、実際には最後まで届く。

✦ この記事のまとめ

介護は始まると話し合う時間が取れません。始まる前に確認するのは三つだけで足ります。書類・希望・連絡の順です。

全部を決めようとすると切り出せません。「どこに何があるか」を聞くだけなら、重い話にならずに始められます。