「親に感謝しなさい」と言われて、うなずけない夜がある。

分かってはいる。育ててもらった。それでも言葉が出ない。

出ない自分のことを、冷たい人間だと思っている人がいる。

言えないことは、性格ではない

藤本は──私は会社勤めのかたわら個人の相談を受けているので、この話をよく聞く──言えない人に共通しているものがある。

まだ整理が終わっていない。

感謝は、整理が終わったあとに出てくることが多い。順番が逆になると、言葉のほうが先に立って、言った本人が疲れる。

言えないのは、順番がまだ来ていないだけ、という見方ができる。

三つに切り分ける

言えない理由は、たいてい三つのどれかになる。混ざったままだと動けないので、分ける。

ひとつ、まだ痛みのほうが大きい。

過去に受けたものが、感謝より前に出てくる状態。ここで無理に言葉にすると、自分の感情を否定することになる。

ふたつ、照れくさい。

関係は悪くないが、言葉にする習慣が家に無かった。これは技術の問題なので、方法を変えれば通る。

みっつ、相手が受け取らない。

伝えても流される、あるいは別の話にすり替えられる。何度かやって諦めた、という形になる。

自分がどれかを決めてから、次に進む。

痛みが大きいとき

ここでは、伝えなくていい。

感謝の言葉は、義務ではない。

言えないまま親が亡くなったら後悔する、という言い方をされることがある。実際に後悔する人もいる。ただ、痛みが残ったまま言った言葉のほうが、あとで重くなることも同じくらいある。

やるなら、伝える相手を自分にする。ノートに書く。送らない手紙を書く。整理は、相手がいなくても進む。

進んだあとで、伝えたくなったら伝えればいい。ならなければ、それでいい。

照れくさいとき

これは方法で解決する。

面と向かって言わない。言葉を、物か用件に乗せる。

  • 誕生日の一言を、贈り物に添える
  • 電話の最後に一言だけ足す(会話の中でなく、切り際に)
  • 郵便で送る(返事を待たなくていい)

顔を見て言うのは、いちばん難しい形になる。難易度がいちばん高いものを最初に選ばなくていい。

相手が受け取らないとき

これは、こちらの問題ではない。

流されたことを、伝え方が悪かったせいにする人がいるが、受け取り方は相手の側にある。

やることは一つ。回数を決める。

年に一度、あるいは節目に一度と決めて、それだけやる。反応を条件にしない。反応を条件にすると、こちらの気持ちが相手の機嫌に握られる。

日を選ぶなら

伝えると決めた場合、日を選ぶ考え方は使える。

新月は、始めることに向くとされる。区切りとして使いやすい。

ただ、暦を条件にしすぎないほうがいい。いい日を待っているうちに、言わない理由が増える。

日は、決めた気持ちを置く場所として使う。決めるのは自分の側になる。

言わなくても、関係は変わる

最後に書いておきたい。

感謝の言葉が、関係を変える唯一の方法ではない。

連絡の頻度を少し変える。会う時間を短くして回数を増やす。話す話題を一つ変える。こうしたもののほうが、実際には効くことがある。

距離の測り方は別に書いたが、言葉より先に距離が動くことのほうが多い。

今週やること

ひとつだけ。

言えない理由が、三つのどれかを決める。

決めるだけでいい。伝えるかどうかは、そのあとで考える。混ざったまま「言えない自分」を責めるのが、いちばん消耗する。

✦ この記事のまとめ

感謝が言えないのは冷たいからではなく、まだ整理の途中だからということがあります。順番を飛ばして言葉にすると、言った側が消耗します。

無理に伝えるかどうかを決める前に、言えない理由を三つに切り分けると、いま自分がどこにいるかが見えます。